🛰架空旅社通信 号外(2025-01)
― 号外:食べられる“光” ― 星間食レーションの記録 ―
📅発行日:2025年10月10日
📍発行:架空旅社 文化観測課(ルミナリエ入星管理局)
📘シリーズ:「架空旅社通信」2025年号外第1号(食文化特集)
🌌星間食の記憶
かつて、ルミナリエの人々は“味のない食事”で生きていました。
それは、星がまだ安定せず、火を扱うことすら難しかった時代のことです。
寒さや毒気、重力の乱れを避けるため、人々は“光そのもの”を栄養へ変える技術を選びました。
このとき誕生したのが、今も研究施設に保管されている標準配給食《レーション》です。
銀の包装を開くと、静かに光を反射する四角い栄養塊。
そこには香りも温度もありません。
それでも、人々はそれを噛みしめ、暮らしをつないできました。
ある記録にはこう残っています。
「舌は退屈だったが、心は生き延びていた」
🍽標準配給食《レーション・タイプA〜C》
今でも研究用・保存用として少量が作られており、それぞれの形には時代の痕跡が宿っています。
・タイプA:無発光型
灰銀色のブロック。栄養を満たすためだけに設計された、最初の“食”。
・タイプB:光素添加型
魔導光藻《ルーメンモス》を混ぜ込み、暗闇で淡く光るスティック。
かすかに塩の味があり、食べると心拍が落ち着くといわれます。
・タイプC:感応栄養食
体温や感情に反応し、食べる人によって色も味も変わる特別仕様。
“懐かしい誰か”を思い出すような香りがする、と語る人もいます。
📸写真:研究施設展示用《タイプA-C》試作品(撮影:調査員Ruca)

金属台の上に並ぶ、さまざまな色のスティック。
表面をすべる光が、まるで呼吸しているようです。
🧪調査員コメント
「Aは噛むたびに心が落ち着く。 Bは少し塩の味。Cは……食べているうちに優しい“誰かの記憶”を感じた」
🍜温度の帰還 ― 麺とスープの時代へ
地球との交信が再開され、ルミナリエに“香り”と“温度”が戻ったのは、数世紀ぶりのことでした。
最初に復活したのは、一杯のスープ。
光藻と魔導香辛料を合わせ、熱とともに香りを立たせた料理です。
その形は、地球のラーメンに似ていました。
湯気が立つ丼は、光の星では珍しい“曇り”を生み出します。
半透明の麺は青から白へ、そして金へ。
光るハーブが浮かび、スープは優しく体を温めます。
📸写真:屋台《ヒカリヌードル》発光スープセット(提供協力)

青白い湯気の向こうで、金の粒が瞬きます。
店主は笑って言いました。
「食べる音は、生きてる音なんですよ」
🌠現代の食卓
今、レーションは研究施設やお土産用、保存食でのみ少数が作られ、旅社の資料としても扱われています。
また、表に出るレーションは、最期の時代のレーションであり、比較的馴染み深いものです。
それでも、“光を食べた時代”を知る人々は少なくありません。
温度のある料理を味わいながら、誰もがあの静かな光の味を、心のどこかで覚えているのです。
📡編集後記
食べるという行為は、生きることそのものです。
味がなくても、香りがなくても、人は誰かとその時間を分け合おうとします。
そして、味を取り戻した今も、あの光の記憶は消えません。
――かつての無味の時代と、今の香りの時代。
その両方を知るこの星は、きっと“生きる”という言葉の意味を、どこよりも深く理解しているのかもしれません。
取材・文:Ruca
